AI動画の見積書を受け取って、手元にある実写の見積書と見比べようとすると、たいてい途中で止まります。項目名がそろっていないからです。「AIキャラクター設計」「AI背景設計」「ツール利用費」。実写の見積書にはどれも載っていません。
そうなると、比べられるのは合計金額だけになります。安いか高いかは分かっても、その安さが何を削った結果なのかは読めません。撮影が無くなったぶんなのか、作る量そのものを減らしたぶんなのかで、届く動画は別物になります。
僕はいまAI動画の見積書を出す側にいます。その前は20年、実写の見積書を作って出す側にいました。この記事では2つの見積書を、項目ごとに対応させます。無くなる行、同じ仕事が別の項目で立つ行、そのまま残る行の3つに分けると、実写の見積もりと同じ土俵で読めるようになります。
この記事で「一般の動画制作」と書くのは、撮影を伴う従来型の制作のことです。
先に結論を書いておきます。AI動画で本当に無くなるのは、当日の人手と、それに紐づく実費だけです。 考える仕事も、仕上げる仕事も残ります。残るものの多くは、項目の名前が変わるだけです。
AI動画の見積もりには、こういう行が並ぶ
まず、実物の並びから見てください。下は、僕が普段クライアントに出しているのと同じ書式で作ったサンプルです(案件名と金額は架空のものに差し替えています)。

見てほしいのは金額ではなく、並んでいる項目です。AIキャラクター、AI動画素材作成、ツール利用費。実写の見積書には無い行がいくつもあります。逆に、実写では必ずあった撮影費・出演費・ロケ地の行がありません。
数量の欄も見ておくと、あとで効きます。この見積もりなら、演出3本・キャラクター1体・素材3本。何を増やすと金額が動くのかが、ここに出ています。
このサンプルは、読みやすさのために行をまとめています。企画費と構成費を1行にし、キャラクターの設計と音声生成を1行にし、背景設計を素材作成に含め、金額の付かない納品の行も省きました。実際にはそれぞれ別の行で、背景設計は1枚ごとに立てます。行の数は案件によって変わりますが、どの仕事にお金を払っているかは変わりません。
ここが違いの本体です。以下、実写の見積書と1行ずつ突き合わせていきます。
一般の動画制作から無くなる行
無くなるのは、現場を成立させるための費用です。
- 撮影当日に人を押さえる費用(アシスタント・スタイリスト・ヘアメイク)
- 照明部・音声部の人件費(カメラマンの技術と時間にあたる撮影費は、次の章の置き換わる行に入ります)
- 交通費・宿泊費
- 保険料(屋外の大型機材や、危険を伴う撮影で立つ項目です)
ロケ地やスタジオの費用は、ここには入れていません。場所代が消えたように見えますが、絵を用意する仕事そのものは次の章の背景設計として残るからです。
金額として大きいのは人手のぶんですが、効きが分かりやすいのは実費のほうです。交通費と宿泊費は、見積書では「概算」で置かれて後から精算になる項目でした。この不確定要素が、まるごと無くなります。
もうひとつ、金額に出ない変化があります。撮影日を押さえるための日程調整が要りません。 出演者・スタッフ・ロケ地の空きを合わせる作業が無いので、ここは金額より納期に効きます。
置き換わる行 — 同じ仕事が、別の項目で立つ
ここがいちばん誤解されるところです。 実写の見積書から項目が消えたように見えて、実際は同じ仕事が別の名前で立っているだけ、という行があります。

- 出演費 → AIキャラクター設計: 実写は役者やモデルを起用する費用でした。AIでは、登場人物そのものを設計する費用になります
- ナレーション費 → AIキャラクター音声生成: 実写はナレーターの起用と収録にかかる費用でした。AIでは、キャラクターごとに声を作る費用として立てるか、生成ぶんをツール利用費にまとめるかのどちらかになります
- 撮影費・撮影人件費 → AI動画素材作成: 実写は日数で積みます。AIは本数で積み、同じ1本でも尺が長いほど単価が上がります
- ロケ地・スタジオ使用料、美術費 → AI背景設計: 場所を押さえるのではなく、映る背景を作る費用になります
- 撮影機材費 → ツール利用費: 実写ではカメラや照明を日数で借りました。AIでは生成の環境を使う費用になります。何カット・何秒を何回試す前提かで決まるので、実費の伝票をそのまま回す形ではなく、想定する生成量に対して一式で置かれます
置き換わった結果、値引きを頼む先も入れ替わります。

実写の見積もりを削るときは、日数を減らし、人数を絞り、ロケ地をまとめました。AI動画で同じことをするなら、本数・体数・枚数・カット数を見ます。「1日減らせますか」は効きません。「登場人物を2体から1体にできますか」が効きます。
そのまま残る行
置き換わりもせず、無くなりもしない行があります。
行として残るのは、企画費、構成費(台本)、編集費、進行管理費です。
行は消えるけれど、仕事は別の行の中に入るものもあります。音の仕上げ(MA費と音響効果費)は編集や字幕の工程に入ります。セリフとBGMと効果音のバランスを整えて仕上げる作業なので、素材が撮影したものから生成したものに変わっても中身は同じです。マスターデータ作成費も、納品の行に入ります。
案件によって立つのが素材使用料です。BGMやフォントを使うかどうかで決まる点は、実写と変わりません。
僕の見積書では、ディレクション費という行は立ちません。 実写では1つの費目で置いていた仕事が、AIでは演出設計と進行管理費に分かれるからです。
ただし、残る=金額も同じ、ではありません。 僕は進行管理費を明細の合計に紐づけて置いているので、現場の行が無くなればそのぶん自動的に下がります。役割が無くならないという意味での「残る行」だと考えてください。
ここまでで、3つの分け方は揃いました。 無くなる行、置き換わる行、そのまま残る行。
あとは手元の見積書をこの3つに当てはめるだけですが、どの行がどれに当たるかは、実物を見ないと決まりません。
お持ちの実写の見積もりを、AI動画の項目に組み直したものをお出しできます。
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畳まれていた演出・絵コンテが、AIでは表に出る
ここは、見積書を見比べたときにいちばん引っかかるところだと思います。
実写の見積書に「演出費」という行は、ほとんど立ちません。 2026年9月の時点で公開されている、制作会社と発注支援メディアの見積もり解説を7件当たって項目を数えました。演出費を独立した項目として載せていたものは0件です。絵コンテは、独立の費目として載せていたものが2件、企画構成費やディレクション費の説明の中に絵コンテを含めていたものが3件、まったく触れていないものが2件でした。
仕事が無いわけではありません。誰かが必ずやっています。見積書の上では、企画構成費やディレクション費の中に畳まれているというだけです。
AI動画では、これが表に出ます。理由は、増えたときの説明がつかなくなるからです。演出設計を企画構成費に畳んでしまうと、本数が増えたときの増額根拠がその場で消えます。 3本が5本になったらいくら増えるのか、発注する側も答えられなくなる。だから僕は、演出設計・絵コンテを独立した行として立てています。本数に紐づくぶんは1本いくら、シリーズ全体の演出設計のように本数へ紐づかないぶんは1式です。
この構造を知らないと、AI動画の見積書を見て「実写より項目が増えている。割高では」と読んでしまいます。増えているのは項目の数で、仕事が増えたわけではありません。畳まれていたものが、名前を持って見えるようになっただけです。
見る側にとっては、そのほうが読めます。本数が増えたときにいくら増えるのかが、その場で分かるからです。
AI動画の見積もりは、どこを見るか
3つだけです。
1. 数量が入っているか。 演出設計・絵コンテが3本、キャラクター設計が2体、というように実数が書かれているか。ここが「一式」に丸められていると、増やしたときの追加費用がその場で読めません。
ただし、シリーズ全体の設計のように本数へ紐づかない項目は、数量が1つなので一式で構いません。問題になるのは、数量が2以上になる項目を一式に丸めている場合です。
2. ツール利用費が、何を前提にしているか。 この行だけは一式で置かれます。僕も一式で出しています。数量ではなく、何カット・何秒・何回の生成を前提に置いているかを聞いてください。前提の量が分かれば、カットを増やしたときに何が起きるかが読めます。
3. 修正回数の上限と、その数え方。 ここは実写と同じです。「修正◯回まで」がどの単位で1回なのか(全体の作り直しか、部分的な直しか)を、発注の時点で確認しておくと後から揉めにくくなります。
金額の水準そのものはAI動画制作の費用相場にプラン別の目安を、実写とAIのどちらを選ぶかという判断はAI動画と実写、どう使い分ける?に書いています。
よくある質問
実写の見積書より項目数が増えています。割高になっていませんか
項目の数と仕事の量は別です。実写では企画構成費やディレクション費に畳まれていた演出設計・絵コンテが、AIでは生成の前に固める必要があるため独立して立ちます。増えて見えるのは、畳まれていたものが名前を持って表に出たからです。総額で比べるときは、無くなった行(当日の人手・交通費・宿泊費・保険料)と、置き換わった行(ロケ地・スタジオ使用料 → AI背景設計)を合わせて見てください。
「ツール利用費」が別に立っています。制作費と二重取りではないですか
別物です。制作費は人が動いて考えることへの対価、ツール利用費は生成そのものにかかるぶんです。実写でカメラマンの人件費と機材レンタル代が別に立つのと同じ構造だと考えてください。気になる場合は、何カット・何秒・何回の生成を前提に置いているのかを聞くと、数量の根拠が見えます。
実写とAIを混ぜる構成でも、この読み方は使えますか
使えます。ただし混ぜる場合、撮影の行は無くなるのではなく規模が小さくなるだけです。撮影日数を絞ったぶんだけ現場の行が減り、足りない絵をAIの行が埋めます。この記事で見た対応関係は、その「絞ったぶん」に対して当てはめてください。
まとめ
AI動画の見積書は、実写の見積書から金額を引いたものではありません。並ぶ行そのものが組み替わります。
無くなるのは、当日の人手と、それに紐づく実費です。アシスタント・スタイリスト・ヘアメイクといった当日の人手、照明部・音声部の人件費、交通費・宿泊費・保険料。撮影日を押さえるための日程調整も無くなるので、ここは納期にも効きます。
置き換わるのは、同じ仕事の項目名です。出演費はAIキャラクター設計へ、ナレーション費はAI音声生成へ、撮影費はAI動画素材作成へ、ロケ地・美術はAI背景設計へ、撮影機材費はツール利用費へ。値引きを頼む先も、撮影日数や出演人数から、本数やキャラクターの数に移ります。
そのまま残るのは、考える仕事と仕上げる仕事です。企画・構成・編集・進行管理。MAや納品まわりは、行の名前を変えて他の行の中に入ります。実写では畳まれていた演出設計・絵コンテは、AIでは独立した行として表に出ます。
いま持っている実写の見積もりが、AI動画だとどの行に組み替わるのか。同じ内容で並べ直したものをお出しできます。受け取った見積書をこの基準で見直したい、という段階からでもお受けできます。
